【死にかけた体験】ちょっとしたタイミングでの運不運

あれは、今から10年前ぐらいの8月中旬のことだ。

当時学生だった私は、スーパーマーケットからの買い物帰りに歩道を歩いていて、降り注ぐ真昼の強い日差しにうんざりしながらも、それなりに急いでいた。

おそらくその日は35度に近い気温の、いわゆる猛暑日だったはず。
購入したアイスが溶けてしまうのを気にしていたからこそ、汗をかきながらも急いで家路についていたのだと記憶している。

ちょうど下り坂の途中にある、ややきついカーブの箇所に差し掛かる手前で、不意に頭に何か水滴のようなものがピシャッと落ちてきたのを感じた。

「天気が良いから雨ではないはずだが」と、立ち止まって不意に上を見るとカラスが電線に止まっていた。
当然ながら、その時点でいちいち手で頭を確認するまでもなく、落ちてきたものがカラスの糞だと認識するのに時間はかからなかった。

「クソッ、なんでこんな時に限って!」
と高温でとっくの昔に茹で上がっていた頭が、更にカッカと燃え上がるような感覚に陥った。

しかし、取り敢えず今すぐ拭き取るぐらいはしないとならない。
無論帰宅したら、アイスを食べるどころかまずシャワーを浴びないとならないのは自明だったが……。

とにかくズボンの後ろポケットに手を回し、クシャクシャに突っ込まれていたポケットティッシュが入っているのを確認して、サッと無造作に取り出した。

普段は、ハンカチもポケットティッシュも持ち歩かないズボラな自分にしては、まあマシな状況だったことに感謝しつつ、無造作に数枚のティッシュを手に取った。

頭をやや下げた状態で、付着した糞をつまみ取るように拭き取り作業を立ち止まったまま繰り返していると、突然キュッーという音と同時にドカンという破壊音が耳をつんざいた。

その時は一瞬何が起きたのかわからなかったが、音のした方向にすぐに顔を向けると、40から50メートル程先だろうか、ガードレールが完全にひしゃげ、乗用車が歩道にまで突っ込んでいたのが視界に入ってきた。急カーブを曲がりきれなかったのだと思った。

当然ながら、もしあのまま何も起きなければ、タイミング的に車が突っ込んできた頃に同じ場所を歩いていた可能性は高い。

さっきまでの体温の上昇はどこへやら、むしろ背筋に寒いものを感じ始めていた

とは言え、今は事故を起こした車の中の人の状況を確認することが重要だと思い直し事故車に駆け寄ってみた。

幸いなことに、エアバッグが膨らんでいて、乗車していた30代ぐらいの運転手には、特に怪我もないようだった。他には同乗者はいない模様だ。

一応一声かけると「スピード出しすぎちゃったみたい。でも大丈夫です」との返答もあり、警察には本人が電話しはじめたので、私がすることもないとそのまま歩き出した。

それにしても、カラスの糞に直撃されるという不運に見舞われたが、あのまま何事もなく進んで、車に直撃されるよりははるかにマシだ。

死んだとは限らないが、それなりの怪我をしたのは間違いないだろう。

「人生万事塞翁が馬」という古くからの言葉があるが、まさに何が幸か不幸かなどそう簡単にわかるものではないと痛感した出来事だった。


この記事はランサーズにて今までの人生で死にかけたエピソードで募集しました

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