これは十年ほど前に実家で起こった体験です。
平日の夜、私、母、中学生の妹の三人でテレビを見ながら夕飯を食べていました。
妹が「髪切ろうと思うんだよね」と言って、私と母は揃って「いいんじゃない」と普通に答えたその時。
小さい女の子のような可愛い声で「似合うよー」と聞こえました。
その場に居る三人の誰とも違う声ではっきりと聞こえて、三人とも「えっ?」と顔を見合わせ辺りを見渡しましたが、当然他の人など居ません。
見ていたテレビの声かとも思いましたが、その時見ていたバラエティー番組は男性芸人が中心で、小さい女の子は出演していないし、そんなシーンがあった様子もありません。
今の声は何だったんだろう、聞き間違いかな、でも三人とも聞いてるし、と妹と首を捻っていると、「あ!もしかして、ポチ(飼っているチワワ)が言ったんじゃない?」と、母が言い出しました。
いやそんな訳無いでしょ、と私が言う前に、妹も母に乗っかって
「えー、ポチ似合うって言ってくれたの、ありがとー」とポチを撫で始めたので、私ももういいやと思い、三人で代わる代わるポチを撫でてその場は収まりました。
ちなみに、ポチはオスだし、それ以降一言も日本語らしき言葉は発していません。
更に一週間ほど経ち、今度は夕飯を食べ終わった後、私と妹は相変わらずテレビを見て、母が台所で夕飯の後片付けをしていた時です。
母がリビングを出て行き、その時はトイレにでも行ったのかと思いました。
それから十分ほど経ち、何の番組を見ていたかは忘れましたが、母が好きな俳優が出てきたので、「おかーさーん!」とリビングから廊下に続く扉を開けて呼びかけたところ、玄関に一番近い両親の寝室から「はーい」と母の声が聞こえました。
「好きな俳優が出てるよ」と声を掛けて待っていると、今度は何も答えず。
「あれ?」と思っていると、ガチャッと玄関の扉が開いて、母が「ただいまー」とコンビニの袋を片手に姿を現しました。
驚き、戸惑い、矢継ぎ早に質問を投げかけました。
「えっ?お母さん外行ってたの?」
「うん。デザート買ってきたから、三人で食べよう」
「私がおかーさーんって呼びかけたの聞こえた?」
「え?いつ?聞いてない」
「うそ、だってお母さんの声で「はーい」って返事聞こえたよ」
「いやー、聞いてないし言ってないよ」
問答を繰り返していると、妹が「私もお母さんの声聞こえた」と援護してくれました。
私の聞き間違いだと思っていた母も、「えー?」と首を傾げました。
が、すぐに、「あっ!この間の似合うって言ってくれた子のお母さんだったんじゃない?」と言い出しました。
え、この間のはポチって話になったんじゃなかったの、と思っていると、妹が「あーなるほどねー」と納得してしまったので、それ以上は私も掘り下げることはせず、母が買ってきたコンビニスイーツを三人で分け合いました。
以上が、私が人生で唯一経験した不思議な体験です。
これ以前にも以降にも、実家で家族の誰とも違う声と会話をした事はありません。
職場の後輩にこの話をしたところ、「いや、不思議っていうか怖いですよ」と怯えられてしまいました。笑
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