【本の紹介】『BTSを読む ー なぜ世界を夢中にさせるのか』

私がBTSのファン「ARMY」になって1年と数ヶ月が過ぎた。

コロナ禍で彼らには非常に楽しませていただき、彼らについて書こうとしたことが何度かあったのだが、熱が入り過ぎてしまい、うまく書けないでいた。

この記事は、私が彼らに夢中になったきっかけとも言える、一冊の本を紹介することで自分のこの熱を少しでも昇華しようという試みである。

BTSに少しでも興味があれば、ぜひお付き合いいただけると嬉しい。

BTS、そしてこの本との出会い

2020年、コロナウイルスの拡大に伴い、世界中の人が自宅隔離を余儀なくされた。
私も仕事が完全に自宅作業となり、ストレスは感じていなかったものの、やはり楽しめるものがないと苦痛だ。そして私がこの時期に楽しんでいたものが、K-POPだった。

最初は、TWICEやBLACK PINKなどの女性アイドルにハマり、毎日彼女たちのパワフルなダンスや音楽をYouTubeで見て、元気をもらう日々を過ごしていた。
そんな中、YouTubeのおすすめ動画にBTSの「Dynamite」が表示された。それが初めて正確にBTS(防弾少年団)を認識した瞬間だった。

それから、「Dynamite」が文字通り世界的な大ヒットとなり、世界中を席巻した。

私は、BTSが韓国や日本だけでなく、世界中で人気がある理由が分からなかった。しかし誰がどう見ても彼らの人気は、他のK-POPアイドルとは一線を画すものだったのだ。

テレビなどでは「SNSの使い方が画期的だったから」などと言われることが多いが、この現象をそれだけで説明されても、正直全く納得できないでいた。

そんな中、2019年に行われたワールドツアーを追ったドキュメンタリー映画「BREAK THE SILENCE」が上映されていることを知り、見にいってみることに。
その映画では、曲やミュージックビデオを見ただけでは分からなかった、彼らの人間性や考え、努力や葛藤などが赤裸々に映し出されていた。

この映画を見て、私は完全にBTSのファンになってしまった。そして彼らの人間性やファンに対する姿勢が、人気のひとつの要因なのだということは、理解できた。

しかし残念ながら、「なぜ彼らが世界中で人気があるのか」という疑問が完全に消えるまでには至らなかった。

私はBTSについて書いている本を探しに、本屋に向かった。そして、やっとこの本に出会ったのである。本のタイトルは、『BTSを読む ー なぜ世界を夢中にさせるのか』
「私が探していたのはこれだ!」と思い、すぐに購入した。

著者の紹介

著者は、韓国の音楽評論家で文化研究者のキム・ヨンデ氏。彼は2007年からアメリカ・シアトルに移住し、アメリカのポップ・ミュージックとK-POPの動きを10年間以上研究している人物だ。

この本で、BTSがリリースした、デビューからの16枚のアルバム(個人のミックステープを含む)のほぼ全曲を丁寧に読み解くという作業を、著者は行なっており、ほとんどのページがこのレビューに割かれている。これはとてつもない労力だ。

しかしこの構成から、キム氏が彼らBTSを「ミュージシャン」として捉え、あくまでも音楽的視点から解釈しようとする確固たる姿勢がうかがえる。

本の序章に書かれていた著者の「決意」を一部引用させてもらう。

ポピュラー音楽の過去と現在を見渡し、同じ点と異なる点を理解し、K-POPのみならず世界のポピュラー音楽の流れのなかでBTSの音楽がもつ意味を立体的に探ってこそ、BTSが成功した理由の全貌をつかむことができる。ゆえにそれは、ずっと音楽を研究し評論し続けてきた私が果たすべき役割なのだ。

ー「BTSを読む」より引用

また、この本の中にはキム氏が自ら韓国やアメリカの音楽関係者などにインタビューをした内容も含まれており、彼一人の見解だけで収まっていないところが、信頼度が高い要因のひとつである。

彼の文章は、変な主観が入っておらず非常に客観的に書かれている。それと同時に、彼の中の音楽とBTSへの情熱も、強く感じられるところに私は好感が持てた。

BTSとヒップホップ ARMYの結成

この本で書かれている内容で、語りたいトピックはたくさんある。
変わったアルバムの構成やその中にある壮大なストーリー、曲の作り方、メンバー個人個人の特徴など、その中でも、ストリート文化好きな私に一番印象深く残ったのが、BTSとヒップホップとの関係だ。

BTSは、2013年にラッパーのRMとSUGAを中心に構成され、「ヒップホップアイドル」としてデビューした。
「ヒップホップ」と「アイドル」という相反するジャンルの組み合わせに、各方面からの批判が飛び交い、特にヒップホップ業界での評判は最悪だったそうだ。
そんな中で彼らは、コンセプトを変えるのではなく、逆にそこに飛び込んで行った。

ヒップホップの本場であるアメリカで、大物ラッパーたちに会いに行き、音楽の作り方などを指南してもらう「アメリカンハッスルライフ」というリアリティー番組を韓国で放送した。ここには、歴史的・地域的背景を持つ「本物」と接することで、彼らのヒップホップに対する情熱が「本物」であることをアピールする意図があった。

この意図に反して、韓国内の評判は得られなかったのだが、海外のファンによって翻訳された同番組が、本場アメリカのK-POPファンたちに大ウケしたのである。
これがアメリカの「ARMY(BTSのファンを示す用語)」が結成されるキッカケとなった。

最初は形から入ったような表面的なものでも、自分たちのスタイルを信じ、そこからいかに「本物」になれるかを追求した。
その際に絶対に忘れてはならないヒップホップへのリスペクトが彼らにはあった。

そうでなければ、アイドルが本場アメリカに行ってラッパーたちに指南してもらうなどという発想は生まれない。そして、その姿勢がアメリカのファンたちの心を掴んだのだろう。

BTSはヒップホップだ

そこから、彼らの音楽性はポップミュージックの色が強くなっていくが、私はヒップホップの本質が軸にあったからこそ、その変化が自然な流れだったと思っている。

なぜなら、ヒップホップは音楽ジャンルである前に、「ライフスタイル、生き様」だからだ。70年代、ニューヨークのブロンクスで壮絶な不況の中から生まれたヒップホップという文化には、奴隷制時代から続く黒人の反骨精神が根底に根付いている。
当時の若者たちは、その精神のもと、自分たちの生活や悲惨な状況をリアルに表現することで、この逆境を跳ね返そうとした。

この「反骨精神」と「リアルかどうか」がヒップホップにはとても重要とされている。
「リアル」の定義には様々な解釈があるため、ここでは追求しないが、BTSの音楽への向き合い方は確実に「リアル」であり、逆境の中で自分たちのスタイルを貫く姿は生き様としてのヒップホップそのものだということは、この本を読めばお分りいただけるだろう。

自分たちの「リアル」に向き合ったからこそ、彼らの音楽は変化しているし、それこそが彼らのヒップホップなのだと私は理解している。

近年、「文化盗用」という言葉を耳にすることも多くなり、ますます表面的なものばかりが溢れかえっているように思う。
ものづくりや表現をする上でまず始めに大事なことは、自分が向き合うものに対してのリスペクトと、その本質を見極めるという作業を決して怠ってはいけない、ということだ。

BTSは今この時代にそれを実践し、世界がそれに熱狂しているのだ。

最後に

この本は、彼らの人気の理由だけでなく、音楽の楽しみ方や視点を変えて考えることの面白さも教えてくれた。

それと同時に、この本を読んだだけで全ての答えを得られると思っていた自分を恥じた。私はこの本から「彼らの人気の理由はそんなに単純なものではない」ことを教わった。

そして1年と数ヶ月、BTSの活躍を見ていく中で、確かに「人気の理由は、ここに書かれていることだけでは、決してない」とハッキリと言うことが出来る。

ぜひこの本を読みながら、BTSのアルバムを聴いてみてほしい。または、アルバムを聴いてから本を読んでもいいかも知れない。
どちらにせよ、ただ漠然と聴くよりもずっと楽しめるはずだ。

そして読み終わったその時、あなたはきっと「ARMY」になっていることだろう。

 

筆者

おおつか えりこ
webライター、webデザイナーとして活動中。
海外中でグラフィティーアートを探している、探検家でもある。
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